#4 GENDAとともに日本のエンタメ文化を創造、海外に発信し、「楽しさの総量」を増やしたい【フクヤホールディングス】

株式会社GENDA 執行役員 キャラクターMD事業最高責任者
株式会社フクヤホールディングス 代表取締役社長/株式会社フクヤ 代表取締役会長
株式会社アレスカンパニー 代表取締役会長
伍彩汇业(广州)贸易有限公司 董事

田中敬一郎

略歴
東京都台東区出身。祖父の代から始まる景品人形卸売業(当時、福屋人形店)の3代目。大学卒業後の1993年4月に株式会社ナムコ(現、株式会社バンダイナムコアミューズメント)に入社。店舗運営を担当し約3年勤務。1996年に二代目の父親が営む株式会社フクヤに戻り、2002年に社長就任。2008年に香港にFUKUYA HONG KONG LIMITEDを設立。2017年に組織を持株会社に移行し、株式会社フクヤホールディングスを設立、代表取締役社長に就任。2018年にFUKUYA USA INC.とFUKUYA TAIWAN LIMITEDを設立。2024年1月31日に株式会社フクヤホールディングスの全株式を株式会社GENDAに譲渡し、2024年2月から現職。

GENDAとの出逢い
いずれ一緒になるという方向性は見えていた

株式譲渡に至る前に、GENDAとは共同出資により2つの会社を設立してきた経緯もあり、いずれ一緒になるだろうという方向性は見えていました。背景には、GENDA会長の片岡尚さんとの関係性があります。

片岡さんとは約13年前から親しくしていました。当時、片岡さんはイオンファンタジーに在籍していましたが、私はクレーンゲームの景品を納入する取引先としてお付き合いがありました。その時から、片岡さんの考え方は何となく私と近しいところがあると共感を抱いていたことを覚えています。

片岡さんがイオンファンタジーを辞めることになったときに、話をする機会がありまして、「エンターテイメント領域においてもっとチャレンジをしたいが、大きな組織の中では、新規事業を立ち上げることは簡単ではない。自分で起業すれば、もっといろんなことができるのではないか」という趣旨の話をされました。日本を代表する企業で重責を担っている人が、辞めて1人立ちしようとするのはすごい決断だなと印象的でして……。じゃあ、何か一緒にやろうということになり、GENDAとフクヤ含む4社で、2019年6月に中国に伍彩汇业(广州)贸易有限公司を設立しました。これが共同設立の1社目です。

2社目はキャラクターの企画開発などを手掛ける株式会社トーキョー キャラクター メーカーズで、2021年8月にGENDAとフクヤホールディングスで設立しました。こちらは僕が持ちかけた話です。ゲームセンターの顔というとゲーム機ですが、コロナ禍により業界が非常に厳しい状況に陥り、メーカーが新しいゲーム機の開発に積極的に取り組まなくなってしまいました。現状、クレーンゲームのように景品がとれるゲーム機が人気で売上げも好調ですが、近い将来、新しいゲーム機が出てこなくなるかもしれない。それに備えてキャラクタービジネスを強化し、キャラクターの企画・開発やデザインの販売、権利の管理をするIPホルダーとなる会社を立ち上げ、その付加価値によりお客さんの需要を呼び起こせるような会社を作っておくべきだと考えたのです。

もう一つGENDAグループとの関係でいうと、フクヤのオンラインショップで取り扱っていた「fanfancy+ 」という推し活グッズのブランドです。このブランドの可能性を見出してくれたのが、二宮一浩さん(現 GENDA GiGO Entertainment代表取締役社長、GENDA執行役員 アミューズメント施設事業最高責任者)でした。

二宮さんは僕と同じナムコ出身で10年以上の親交があります。「fanfancy+」はオンラインショップのみの取り扱いで、時々、期間限定でポップアップショップを出店していました。長い行列ができる人気ぶりから、二宮さんから「常設店舗にしませんか?」と提案があったのです。それが現在、GiGO池袋3号館の7階と原宿の竹下通りの2カ所に出店している常設店である「fanfancy+ with GiGO」です。

スピード重視のGENDAとは異なる社風
一緒にやっていくには時期尚早では?

GENDAとは会社設立や店舗運営などいろいろな取り組みを一緒にしていましたが、株式譲渡の話は、片岡さんが代表取締役社長の申さんとGENDAを共同創業した頃から、冗談めかした感じでずっと言われ続けていました。それが本気モードに切り替わったと感じたのが、昨年、2023年7月28日にGENDAが株式市場に上場した時でした。僕としては、トーキョー キャラクター メーカーズや「fanfancy+ with GiGO」などの業績が順調に上向いていくようであれば、GENDAと一緒になる未来もあると考えていましたが、フクヤの実力査定をしてみると、正直、時期尚早ではないかという逡巡もあり、多いに頭を悩ませました。

加えてネックになっていたのはGENDAとフクヤとの社風の違いです。バリューのひとつに「Speed is King」を掲げるGENDAと、「かわいいものが好き、とにかくかわいいものを作りたい」というフクヤでは相容れないのではないか。その一方で、トーキョー キャラクター メーカーズや「fanfancy+ with GiGO」という2つの共同事業を通じ、現場レベルでの両社のコミュニケーションが生まれ、一緒になってもやっていけそうな雰囲気は醸成されつつあったんです。これについては、二宮さんがうまく取り持ってくれていたように感じています。また、GENDAが目指している「世の中に流通する楽しさの総量を増やす」に関しては、フクヤの強みが発揮できるのではないか?という自負がありました。

設立70周年のハワイ社員旅行が功を奏する。
2023年12月15日に株式譲渡を発表

フクヤは昨年、2023年5月に設立70周年を迎え、10月にハワイへ記念の社員旅行をしてきました。そろそろ株式譲渡の最終判断をしなければと思っていたタイミングでもあり、片岡さんと二宮さんもお誘いしました。二宮さんとは面識がある社員もいたのですが、片岡さんとはどの社員も初対面。ですが、記念パーティーの際に挨拶していただいたり、旅行中にお二方といろいろやりとりする中で、大丈夫なのではないかという感触がつかめました。

実際に決心したのは11月でした。そして12月15日にGENDAがフクヤホールディングスの全株式を取得することが発表されました。発表はその日の15時でしたが、実はその直前にフクヤでは1年間の年度計画発表会を執り行っていました。社員にしてみたら、年度計画が発表された直後にGENDAグループに入ることが発表され、混乱したかと思います。フォローのために、16時から社員に「さっき発表した年度計画には、GENDAグループの一員になるという前提で取り組んでいくので、ついてきてください」という趣旨の説明とお願いをしました。

その時の社員の反応は意外と冷静でした。「これからどうなるのか」と詰め寄るような者もいなかった。その日の夜は会社の忘年会で、意見や文句があれば聞こうと社員のテーブルを回りました。ところがみんな「楽しみが増えました」と明るいんです(笑)おそらく社員旅行の際に片岡さん、二宮さんのお話を聞いて考え方や人柄に触れたこと、さらに二宮さんとは一緒に仕事をしたことがある社員もいたことから、GENDAと一緒になるイメージが想像しやすく、抵抗感が少なかったのでしょう。

ただ、先程もお話ししたとおりGENDAとフクヤでは社風が違う部分があります。GENDAへの株式譲渡のプレスリリースの内容をすり合わせる際には、両社の経営理念がぶつかりそうなところを協議しました。例えばリリース文章の中に「fanfancy+ with GiGOの加速度的出店」という文言がありました。「Speed is King」をバリューとするGENDAとしては加速度的出店が正義でしょうが、フクヤとしては再考してほしい。ブランドを継続していくためには、需給のバランスをとることが非常に重要です。売れるからといって一気に拡大すると飽きられるおそれがあるので、出店は慎重に進めなければなりません。そういった違いについては片岡さんが寛容な姿勢をみせてくれたので助かりましたし、社員のためにも今後もフクヤの社風や理念を守っていくことが僕の責務だと考えています。

実際のプレスリリースはこちら

M&Aの業務はGENDA担当者がフォロ
2024年2月1日に成約式を実施

グループインが公表されてからは大忙しでした。公表から取引実行日までは約1ヵ月半しかなく、それまでに必要な書類を揃えて手続きを済ませなければなりません。フクヤは中小企業ですから管理部門は僕も含めて3人体制。通常業務を行いながらの作業は結構な負荷で、「間に合わないかもしれない」と焦る瞬間もありましたが、そこはGENDAのM&A担当者がきめ細かくフォローしてくれたので何とかなりました。

同時に取引先への説明も進めました。昨年70周年を迎えられたのは、お客さんたちとのつながりや支えによるものです。GENDAグループに入ってもそこは変えたくないという思いがあり、各取引先に、グループとしての優先事項はあるものの極力変わらないお付き合いをさせていただきたいという旨を丁寧に伝えました。

2月1日にはGENDA主催でM&A成約式が執り行われました。成約式は企業と企業の結婚式のようなものです。成約書にサインをしながら、GENDAが創業されて間もないころ、当時永田町にあったGENDAのオフィスで、20人足らずでクリスマスパーティーを開いたことを思い出しました。片岡さんはその時からわずか6年の間に上場を果たし、会社を大きく成長させてきたことを思うと改めてすごさを痛感し、そこに今回自分も加わったことに深い感慨を覚えます。

GENDAグループ参画により、
「かわいい」「面白い」をレベルアップして発信

GENDAグループとなり、まずやらなければならなくなったことは連結決算の作成です。フクヤホールディングスは国内外に4社のグループ企業を保有していますが、連結決算の作成が毎月のルーティンとなり、2回ほど経験した中で課題も見つかり、うまくいきそうだという見通しが立ってきたところです。

事業の面では明らかに案件のレベルに変化があります。実際に仕事に結びつくのはまだ先でしょうが、今までなかったような版権キャラクターの提案を受けるなどレベルアップした話がたくさん寄せられ、社員ともども楽しみが増えています。

フクヤという会社は、GENDAと合流する前から日本のエンターテイメント業界においてプライズの提供を中心に「かわいい」や「面白い」にチャレンジし、お客さまが楽しんでくれるようなモノ・コトを作る。それが日本で流行ったら、次は海外に日本の「かわいい」「面白い」を文化として発信する。この2本立てを常に意識して事業展開してきましたし、それはこれからも変わりません。日本でエンターテイメントをしっかり流行らせたうえで、海外に持っていきたいという考え方はGENDAとも共通しているところで、冒頭で片岡さんと考え方が近しいと話したのはこの点です。社風は違えど、近い考え方も持つGENDAとフクヤが共同で事業を生むことができれば、フクヤ単独では不可能だったことやレベルアップしたことができるのではないかと考えています。

GENDAにグループインしてまだ2か月ほど(本インタビューは2024年4月に実施)ですが、GENDAの一員として2025年に向けて、やろうと思っていることが2つあります。具体的な内容はまだ発表できませんが、「世界中の人々の人生をより楽しく」というGENDAのAspirationにもつながるようなことになりそうなのでご期待ください。

紹介したM&Aの概要

株式会社フクヤホールディングス。株式譲渡前のオーナー社長だった田中敬一郎氏が2017年に設立した持株会社で、国内外に株式会社フクヤ、FUKUYA USA INK、FUKUYA HONG KONG LIMITED、台灣福屋有限公司の4社を保有。2024年1月31日に全株式をGENDAに譲渡し、グループ入りする。