株式会社GENDA GENDA 欧州事業責任者
GENDA Europe Ltd. CEO
大富 涼
略歴
一橋大学卒業。同経営学修士コース(MBA)修了。2017年に新卒で三菱商事株式会社に入社し、在タイ子会社のターンアラウンドプロジェクトなどに参画。2020年に米系コンサルティング会社のBain&Companyに入社。コンサルタントとして複数の国内大手企業に対し、幅広い経営支援・提言を行う。並行してサーチファンドジャパンのサーチャー(経営者候補)となり、欧米では一般的な事業承継型M&Aの手法を活用して2022年に株式会社アレスカンパニーを承継、代表取締役副社長として入社。2023年2月に代表取締役社長就任。2023年10月にGENDAに株式譲渡、2024年9月、同社のGENDA 欧州事業責任者、GENDA Europe Ltd.代表に就任し、現職。1993年生まれの30歳(取材時)。
日本経済を牽引するような経営者を目指し、
三菱商事からキャリアをスタートさせたが……
アレスカンパニーは、アミューズメント(ゲームセンター)施設向けのプライズ(景品)を企画・製造・販売する、国内でもユニークな存在の商社です。この会社を2022年3月に事業承継型M&Aで引き継ぎ、2023年2月に代表取締役社長に就任した後、同年10月に株式譲渡してGENDAにグループインする運びとなりました。
私のキャリアにおける目標は、日本経済を牽引するような経営者となり、世界の中での日本のプレゼンスを高めて再成長させることです。そもそも経営に興味を持ち始めたきっかけは、高校時代にカリキュラムの一環でマクドナルドの経営戦略分析のレポートを作成したこと。それを起点として企業の経営戦略について分析・思索するようになり、一橋大学の商学部に進学してからは個々の企業の経済活動でのパフォーマンス最大化が日本経済の活力そのものに直結し、それを牽引できる経営リーダーが日本に不足していることが”失われた30年”のような経済停滞の原因の一つなのではと考えるようになりました。その中で、まずは自分自身が一人の経営者として、プロフェッショナルと自負できるだけの力量を身に着けたいと考えMBAコースに進学し、前後して具体的に経営者になるためにどう行動すべきか、業界問わず成果を出し続けるプロの経営者としてどうあるべきかを真剣に考えるようになりました。
MBAコース修了後は三菱商事に入社しました。三菱商事を選んだ理由の1つは、事業経営の機会が多いこと。商社というとグローバルや貿易などといったイメージが強いかもしれません。それも重要な側面ですが今は各国への事業投資が中心です。世界中に広がる事業投資先子会社の代表やCXOになる社員も多く、自分にも経営のチャンスが巡ってきやすいのではないかと考えました。実際、入社2年目にタイに赴任し、語学研修を経て在タイ子会社のターンアラウンドプロジェクトなどに参画しました。
タイでの経験は非常に濃密で、日本発信で世界と戦っていく事業のまさに最前線であり、また難易度の高い経営局面の中で社員や各種ステークホルダーのことを重視しながら、どのようなあるべき姿を模索・実現するか、という自分の経営観の根幹にもなる経験だったと思います。そうした非常に良質な経験が積める場だったことは間違いないのですが、経営者になるまでの時間軸の捉え方、それから巨大組織の中での経営者像といったものが果たして自分が目指すところと一致するのか、徐々に疑問が湧いてきたのです。
時間軸でいうと、比較的キャリアの早い段階で代表や社長になれるとはいえ、10-20年ぐらいの下積みが必要です。個人的にはこれは長すぎると感じています。経営者の見ている世界や考え方・必要とされるスキルは一定の特殊性があると考えており、実際に経営者にならないとわからない感覚が多々あるのではと当時から思っていました。経営者を目指しプロとして一生の仕事にしていくのであれば、20代や30代のキャリアの早い段階でとにかく実践経験を積むことで、必要な感覚を洗い出し研ぎ澄まし続けていくべきだと考えています。なので早く経営者になることが、私にとっては非常に重要でした。
また経営者像についてですが、大企業におけるサラリーマン経営者というのが自身の目指すところとは異なっているように感じました。学生時代にお会いした柳井さんや三木谷さんのような起業や承継など能動的に道を選びオーナーシップを持って経営者になったタイプと、辞令や組織の力学の中で経営者になったタイプでは、思考法や迫力のようなものがかなり変わってくる可能性があるように見えた部分がありました。勿論組織の中で強い責任感や使命感と共に職務に取り組む先輩もいらっしゃいましたが、それでも組織のしがらみの中で、企業価値向上の観点で取れる打ち手は限定的と感じました。そうだとすれば、自らリスクをとった上で、長期的な視点に立って企業価値向上のためにあらゆる手段を検討し最適な打ち手を取れる経営者を目指したいとの思いが自分の中で大きくなり、自分自身で経営の道を切り開く方向へ転換するため、約3年勤務した会社を離れることにしたのです。
今後20〜30年先を見据えると、
日本が強みを発揮できる分野は「食」「観光」「エンタメ」
転職先はBain&Company(べインアンドカンパニー)という米系コンサルティングファームでした。ここで世界標準の経営や最先端の経営理論をクライアントとのプロジェクトを通じて理解し学びたいと考えたのです。戦略コンサルという仕事自体、個人的に知的好奇心が刺激されて面白いと感じたのはもちろん、自分自身の経営者としての成長という点を考えても、有用なステップだろうと思いました。
それと並行し、経営者になるための具体的なアクションとして、サーチファンドジャパンのサーチャー(経営者候補)になりました。同社はまだ日本では事例が少ない事業承継型M&Aを目指すサーチャーを支援する投資会社(アクセラレーター)で、サーチャーが事業承継先を発掘・選定する際にアドバイスを行い、承継先が決まったら資金の供給や経営の伴走支援を行います。
私の場合、承継先企業の候補はM&Aの仲介業者を通じて紹介を受けました。候補は複数ありましたが、選択のポイントとしたのは、「世界でプレゼンスを発揮していけるような日本の産業に貢献する企業」ということです。個人的な仮説ですが、これから20〜30年先を見据えたときに、日本が世界で強みを発揮できる分野は「食」「観光」「エンターテイメント(アニメ、ゲーム等のサブカルチャーを含む広義のエンタメ)」の3つではないだろうか。これらがゆくゆくは日本の基幹産業となり、輸出に大きく貢献するのではないか。そうした視点で様々な企業を検討し選び出したのがアレスカンパニーでした。
アレスカンパニーの魅力は
「プライズの総合商社」というユニークな立ち位置
アレスカンパニーは冒頭でも触れたようにプライズの総合商社です。アミューズメント施設運営の市場は今非常に伸びています。その中で一番の成長ドライバーになっているのがプライズゲーム、いわゆるクレーンゲームです。最近のアミューズメント施設の店舗作りはクレーンゲームの筐体をずらりと並べて構成するのが主流で、大型店ともなると400〜500台程度の筐体をすべて埋められるようなプライズ(景品)の選定・調達が必要になってきています。どのようなプライズがお客さんに喜んでもらえるのか、目利き力と調達力が店舗の売り上げを大きく左右します。
そんな環境下で「プライズの総合商社」という立ち位置は、非常にユニークかつ魅力的に感じました。商社のいいところは、様々なメーカーの商品を一緒に提案できるというところです。アレスカンパニーは商社として多種多様なプライズメーカー様と取引があるため、幅広い選択肢の中から人気が高いプライズ、トレンドのプライズ等をゲームセンターのオペレーター(運営会社)に提案できます。1回の商談で複数のメーカー様の商品情報を提供できるので、取引先の立場から見ると、短時間で数カ月分の仕入れや多数のメーカー商品の買付けをまとめてできるという高い効率性を享受できます。アミューズメント施設運営市場においてプライズ需要が急速に高まる中、プライズメーカーとオペレーターの間を効率的に仲立ちするアレスカンパニーの事業には勝ち筋があるのではないか。そう考えて承継先に選びました。
28歳の時に事業承継型M&Aを実現。
1年半ほどで売上高を2倍に増やす
事業承継型M&Aの手法で、アレスカンパニーには2022年3月に代表取締役副社長として入社し、経営を主導する立場となりました。当時は28歳で社会人になってからまだ5年ほど。もともとゲームセンターは好きで通っていたのですが、エンタメ業界で仕事をするのは初めてだったので、日々何が業務として発生するのかに始まり、メーカーや商材を覚えたり、流行を捉えたりするにはそれなりに時間を要しました。また、各社との取引において人脈が物を言う業界でもあるので、その点はなかなか即効性のある業績貢献が難しかったですね。
振り返ってみると、一番気を配ったのは従業員に認めてもらい信じてついてきてもらうための関係性作りだったように思います。自分自身意識していたことは2つあり、1つは当たり前ですが事業にしっかりと貢献すること。前述の通り難しい側面もあったのですが、アレスカンパニーは中小企業なので、人手が回らないためにできていなかったこともいくつかありました。私が注力したことの1つは業務のIT化です。新型コロナの時節ということもあり、リモートワークが可能な環境を整えるなど、現代流というか令和の会社として機能する体制を整えることを至上命題として実行しました。いわゆるDX化も推進し、社内でバラバラだった顧客データを一元管理するシステムを導入しました。また、人事制度や組織体制も拡充し、皆が安心して伸び伸びと仕事に取り組めるような体制を目指しました。結果として、営業をはじめとした社員全員の頑張りもあって、事業承継から1年半ほどで売上高を2倍に増やす成果をだすことができました。
もう一つ意識したのは、オン・オフを含めて従業員と信頼関係を築くことです。例えば懇親会などオフの時間を通じて、一緒に働く仲間として楽しい時間も共有できる関係性の構築を目指しました。最初のうちは私自身の理解不足、配慮不足もあり課題を感じる日々もあったというのが正直なところですが、半年ほど経ったころから従業員とは徐々に打ち解け合い、波長も合って一緒に将来を目指して進めるような信頼し合った関係になったように感じました。私自身もどんどんアレスカンパニーの皆が好きになっていきましたし、従業員からチームメンバーとして、もっというと家族として認めてもらえているのではないかと感じるようになりました。
GENDAグループインのきっかけは
大学時代の先輩であるCFOの渡邊氏
ほぼ1年かけて前経営者から業務を引き継ぎ、2023年2月にアレスカンパニーの代表取締役社長に就任しました。同年10月にはGENDAに株式譲渡し、グループインに至ったわけですが、きっかけの一つはGENDAの取締役CFOである渡邊太樹さんと一橋大学の先輩後輩の仲だったことです。近しい業界にいるGENDAの動向に関心を持った際に、渡邊さんが在籍していることに気付きました。
そこから、近況報告がてらアミューズメント施設におけるプライズ需要の高まりや、プライズ専門商社の立ち位置のユニークさの話などをするうちに、会長の片岡さんや社長の申さんを紹介してもらいました。事業に関する対話を重ねる中で、お二方はM&Aにより急拡大するGENDAにアレスカンパニーが参画すれば、プライズメーカーとゲームセンターのオペレーターをつなぐ役割がグループ内に生まれ、より高いシナジー効果を発揮するのではないか。そんなふうに考えてくれたようで、大きな絵姿を一緒に描いていきませんかとM&Aの提案を受けました。
対話を重ねる中で実効性が高い現実的な打ち手がかなり出てきていたので、経営者としての視点から、きちんと一緒に進んでいける信頼できるパートナーだと確信し、M&Aの提案を受けることにしました。従業員にとっても、業界の中で有望な会社の一員となることは仕事のモチベーションを上げ、キャリアとしても面白い展開が描けるのではないか。それが従業員全員の幸せにつながるのではないか。そう感じたこともM&Aの決意を後押ししました。個人的には、GENDAの社名の中に「Global」というキーワードが入っていて、実際に世界を見ていることにも大きな魅力を感じましたね。(GENDAの由来は「Global Entertainment Network for Dreams and Aspiration」の頭文字をとったもの)
アミューズメントマシンのレンタル事業を承継し、
ワンストップのソリューション提供が可能に
具体的にM&Aによるグループインの話が進んだのは、GENDAが株式市場への新規上場を行った2023年7月28日の直後からです。そこから10月の株式譲渡に向けて、具体的に統合に向けてのプロセスが一気に進みました。必要書類やデータの準備も含めて作業は大部分を自身で行いました。以前在籍したBain&Companyで企業にM&Aの支援を行い、実際に自分でもM&Aした経験から手続きの作業は非常にスムーズに進んだように思います。
グループインしてからは、シナジー効果の大きさを実感しています。一番大きいのはGENDAでアミューズメント施設「GiGO」等を国内外で約300店舗運営している株式会社GENDA GiGO Entertainmentとの取り組みですね。これまで以上に幅広いプライズの商品企画が実現し、仕入れに関してもメーカーからの協力が得やすくなり、大量発注による単価引き下げなど、ビジネスの効率化が進んでいます。また、中国大陸や米国にあるGENDAの企業との協業も進んでいますし、グループイン後から新たな挑戦として掲げていた「GiGO」でのポップアップストアやグループ各社とのコラボ商品などの取組みも実施しました。
加えて2024年6月には同じくGENDAのグループ企業である株式会社GENDA Gamesから、アミューズメントマシンのレンタル事業を承継しました。これによりアレスカンパニーは顧客に対して、例えばクレーンゲームなどの筐体から、その中に入れるぬいぐるみなどのプライズまでワンストップのソリューションを提案・提供できるようになりました。この新たな強みも、しっかりと育てていけるだろうと思っています。
多種多様な経営人材が揃うGENDAの中で、
経営者としての力量を高め、日本の経営者層を厚くしたい
2024年9月からはGENDAに籍を移し、欧州事業責任者、GENDA Europe Ltd.のCEOに就任しました。また、アレスカンパニーはGENDA Gamesから事業を承継したタイミングで副社長として参画頂いた太田さんにお任せすることになりました。
振り返ってみると約1年、GENDAの一員としてPMIや各社・各部門との連携に取り組み、より一層の事業成長を更なるスピード感で推進できたと感じます。また、一人では実現することが困難だったと思われる安定的・効率的な経営管理体制の構築が進んだように思われます。私自身に属人化してしまっていた経営の要素をグループのコーポレート部門と太田さんに巻き取って頂いたおかげで、安心して長期継続的に事業成長を目指せる礎ができたのではないかと感じています。
それ以外にも、例えばオフィスも千葉県松戸市からGENDAのメインオフィスである東京・汐留に移転しました。従業員にとっては短期間に2度のM&Aを経験したうえ、勤務先も小さな事務所から都心のオフィスビルに変わるなど、色々なカルチャーショックが大きかったのではと思いますが、徐々に慣れてきてくれているように感じます。また、長く一緒に事業に取り組んでくれていた従業員に経営参画もしてもらうなど、彼ら自身の働き方や役割も自然と変わりながら、より大きな挑戦に連続的に取り組めるポジティブな変化と捉えてくれているのではないでしょうか。
そうした中で、これまでの仲間と共により大きな挑戦を、と考えていたところでしたが、私自身の役割も変化を求められているようです。笑
GENDAに参画する際に感じたGlobalへの意志は米国National Entertainment NetworkのM&Aなども含め、想像以上のスピードと規模感で実際に進んでいる感覚があります。一方で、GENDAとして真に世界一のエンタメ企業を目指すのだとすれば、より広く、例えば地域として欧州などに住む人々も笑顔にしていくことは必然の目標となってくると考えています。ビジネスとしても、中国大陸や米国に続く巨大市場であり、多くの文化や流行の発信源ともなっている重要地域ですので、ここを外してグローバル企業を標榜することはできないでしょう。
安心してこれまでの事業と仲間たちを託せる状況ができたことで、GENDAの経営の一翼として新たにこの市場に挑戦することを決断することができました。個人のキャリアとしても、職業人生において一貫して”ビジネスを通じた日本経済の活性化”や”世界におけるプレゼンスの向上”をキーワードとして、日本発で世界に価値貢献することに軸足をおきたいと考えてきましたので、私自身のAspirationとも非常に共鳴する部分がある胸が躍るような挑戦だと感じています。
最後に、GENDAでのJourneyにおいて非常に面白く、かつ期待を感じている点として、GENDAには多種多様な経営人材が揃い、それぞれが有機的に影響し合うことで全体としての強みが増しているように感じられることが挙げられます。その中で、私個人の役割も変わってグループ内の様々な会社の経営に携わりながら、新たに迎え入れた仲間や経営陣とお互いに学び合い、初心に返って、より経営者としての力量も高めていけると信じています。そうした活動を通じて、日本経済の課題だと感じる経営者層の厚みを増していく取り組みに繋がっていくと、非常に面白いと考えています。GENDAには「2040年、世界一のエンタメ企業に」というビジョンがありますが、これを一緒に追いかけ実現した時、更に面白いキャリアになっていくことは疑いようがないと思いますし、GENDAに来なければきっと見られなかったであろう壮大な景色を目にすることができるのではないかと、わくわくしていますね。
紹介したM&Aの概要
株式会社アレスカンパニー。1999年設立。創業者の引退により前経営者が事業承継。その後、現代表取締役社長の大富涼氏が2022年3月に事業承継型M&Aにより経営権を握り2023年2月に代表取締役社長就任。2023年10月31日に全株式をGENDAに譲渡し、グループ入りする。
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