川口 範
株式会社シン・コーポレーション 代表取締役
略歴:
1994年にセガ・エンタープライゼス(現株式会社セガの前身)入社。ゲームセンターの店長を複数店舗経験した後、経営企画や管理部門を担当。2012年、セガ エンタテインメント 執行役員、2014年に取締役に就任。(2020年12月にM&Aによりセガ エンタテインメントがGENDAにグループインし、社名がGENDA SEGA Entertainmentとなる。)2021年、GENDA SEGA Entertainmentの常務取締役に就任。2022年、GENDAが全株式を取得し、現在のGENDA GiGO Entertainmentに。2024年2月、GENDAのグループ企業であるシン・コーポレーションに転籍し、同年5月に代表取締役に就任。
たくさんの恩を先輩たちから受け取った。
その恩を後輩たちに送っていきたい。
大学卒業後の1994年、セガ・エンタープライゼスに入社しました。入社後は北海道の店舗でキャリアをスタートさせ、その後、店長として複数店舗の運営に携わりました。特に思い出深いのは、札幌で店長を務めていた時のことです。私が任された店舗の近くには、売上が15%以上も大きい「兄貴分」の店舗がありました。
「兄貴分の店を抜こうよ」
そんな私の提案に、スタッフが賛同してくれて店長就任から1年半ほどで追い抜くことができました。その時のスタッフとの祝勝会は今も鮮明に覚えています。
なぜ店長として就任したばかりの私にスタッフが着いてきてくれたのか。もちろん、「良いスタッフに恵まれた」というのが最大の理由ですが、スタッフとのコミュニケーション量が多かったことも理由のひとつかなと思います。
当時務めていたゲームセンターは、朝10時から夜12時が営業時間でした。スタッフは基本的に早番と遅番の2交代制で勤務していたので、勤務時間が被らず、どうしても会えないスタッフがいました。そこで私は休みの日、早番の終わり時間、遅番の終わり時間にお店にいって、時間があるメンバーと飲みに行き交流を深めていました。そこでは、仕事の話はもちろん、くだらないこともたくさん話しました。振り返れば、若い頃から一緒に働く仲間への思い入れは、人一倍強かったかもしれません。

店舗勤務を経た後は、支社、そして本社に異動となり、経理や経営企画といった管理部門で経験を積んでいきました。本社の経理部に異動する際、ある先輩から「あなたはいずれ経営企画で活躍することになるだろうから、今のうちに会計を学んでおいたほうがいい」と背中を押してもらったことが印象深く記憶に残っています。実際、その後は経営企画の部門で長くキャリアを築いていくことになったので、経理部への異動は大きな転機でしたね。
転機といえばもう一つ。私にとって、忘れられない時期があります。2009年頃、ゲームセンター業界全体が、厳しい状況に陥っていた時のことです。当時私は事業部で数字を取り仕切る担当をしていました。そのため、厳しい選択を迫られる場面も多くて……。日々圧し掛かる大きな責任に毎日苦しい思いでいましたし、正直、会社を去ることも考えていました。それでも「まだこの会社でお世話になった方々への恩返しができていない」という思いで踏みとどまりました。
それまでは、「自分に与えられた仕事を全うする」スタイルで仕事をしていたのですが、この時期を経て「一緒に働く従業員の生活を守れるような存在になりたい、そのために自分は何をすべきなのか?」と強く思うようになり「広い視野で会社全体を見なければいけない」と仕事への向き合い方を変えました。どんなに忙しくても部下と話す時間を設けたり、ビジネススキルを学ぶ勉強会「川口塾」を開いたりしました。これらの習慣は、その後取締役になってからも、そしてシン・コーポレーションの代表になった今も続けています。
従業員も店舗も守るには?
GENDAへのグループインを受け入れられた理由。

セガ エンタテインメント(現:GENDA GiGO Entertainment)がGENDAにグループインするという話を聞いたのは、2020年、コロナ禍の真っ最中でした。”セガ”ブランドへの愛着を持って長年働いてきた私にとって、その突然の知らせは当然ショックでした。しかも、当時のGENDAはまだまだ立ち上がったばかりで規模も小さく、正直なところ「全く知らない会社にM&Aされるなんて、これからどうなるんだろう」と不安が大きかった。
一方で、従業員と全国の店舗を守りたい、という思いも強くありました。コロナ禍では営業停止を余儀なくされ、ゲームセンターの状況も例にもれずとても厳しかった。このとき、2009年のことを思い出しました。もう二度と、従業員に不安な思いをさせたくない。しかし、このままではまた同じことを繰り返してしまうのではないか、と不安と焦りを抱えていました。
そんな中、GENDAは「従業員も店舗も減らさない」と言ってくれました。その言葉を聞いて従業員を第一に考えるなら、GENDAにグループインするのは最善の方法なのかもしれないという考えが頭の中をよぎりました。また、片岡会長と初めて会ったとき「2040年までに世界一のエンタメ企業になる」という思いを熱く語ってくれて。そこで感じた熱量に、「GENDAとなら、従業員も店舗も守って、更に新しい道を切り開いていけるかもしれない」と希望が湧いてきました。
それでも、従業員にM&Aを伝えた当初は、社内に混乱が広がりました。その場で涙を流す人もいて、強い思いを持っている従業員が多い組織だということを改めて感じましたね。何度も会話を重ねて、時間をかけて理解を求めていきました。
従業員の気持ちが前向きになっていったのは、GENDAへのグループイン後、実際にM&Aで店舗を増やしたり、GiGOの大型店舗を出店したりといった具体的なアクションが積み重なり、店舗数や売上などの数字が大きくなっていく現実を体感してからだったと思います。GENDAの「スピード感をもって成長しよう」「失敗を恐れず挑戦しよう」という文化が、従業員にもポジティブに伝播していって、社内の意識も少しずつ変わっていったのを感じました。

2023年9月20日、池袋にオープンした旗艦店「GiGO総本店」
プレスリリース:https://genda.jp/2023/09/14/230914gigo_sohonten/
シン・コーポレーションへ突然の異動。
50歳を過ぎてからの新しい挑戦。
セガ エンタテインメントがGENDAにグループインしてから3年ほど経った頃、片岡会長(現 GENDA代表取締役社長CEO)から「話があります」と声がかかりました。正直身に覚えがなかったので「何かやらかしたかな……?」とドキドキしましたね(笑)
片岡会長から伝えられたのは、カラオケ事業を展開するシン・コーポレーションを任せたいという内容でした。全く経験のないカラオケ業界に身を置くことなど考えてもいなかったので驚きましたし、同時にGiGOの従業員の顔が浮かびました。彼らの生活を守ることを使命のように感じていたので「苦楽を共にしてきた従業員から離れても大丈夫だろうか」と親心のような心配が頭をよぎりました。
片岡会長とは30分ほど話をしたと思います。会話を続けていく中で、GENDAにグループインしたからこそ、自分では想像もしなかったチャンスが巡ってきたのだ、そして、そのチャンスに私自身が挑戦し「GENDAは可能性が広がる場所である」ことを背中で示すことで、GiGOの従業員たちにも伝えられることがあるのではないかという思いが強まりました。その場で「ぜひ、よろしくお願いします。」と答えました。

シン・コーポレーションに異動してまず取り組んだのは、「現場を知ること」でした。カラオケ業界は初めてだったので、土日を利用して「カラオケBanBan」のスタッフとして働かせてもらい、接客から清掃、皿洗いまで一通りの業務を経験しました。
50歳を過ぎた身体には正直きつかったですが(笑)、実際に現場で働くことで、スタッフの大変さや喜びを肌で感じることができました。ゲームセンターとカラオケにはアミューズメントの店舗運営という共通点はあっても、運営の仕方はかなり違います。カラオケ店舗は1店舗あたりのスタッフ数がゲームセンターと比べるとかなり少なく、特に平日は一人で店を回すことも多い。そのため、スタッフ同士のコミュニケーションの取り方がゲームセンターより難しいと感じました。しかし「日常の中で、気軽に楽しめるエンターテイメント」という点は同じで、お客様の根本的なニーズに共通点があるということも改めて確認することができました。
現在(取材は2025年3月)は、シン・コーポレーションにいる約500人の従業員との面談を実施中です。2024年5月から始めたのですが、全国各地のスタッフと1人最低30分は話をするので、全然終わらなくて(笑)でも、直接話すからこそ、分かったことがたくさんあります。愚痴や不満には、運営改善のヒントが詰まっていますし、「GENDAにある他の事業にも挑戦できますか?」といった前向きな声を聞けると、純粋に嬉しいですね。
GENDAの強みを活かし、
カラオケ業界で1番を目指す。
シン・コーポレーションでの最大の目標は「カラオケでいちばんになる」ことです。そのために、GENDAの持つさまざまな強みを存分に活用していきたいと考えています。

GENDAの強みの一つはM&Aを成功させる力です。カラオケのロールアップM&Aは今後も積極的に行っていきたいと思います。またもう一つの強みは、テクノロジーの力です。GENDAに所属するテクノロジーのチームがシン・コーポレーションのDX化に力を貸してくれています。GENDAにグループインしてからリニューアルしたお客様向けのアプリは会員数が100万人を超えるなど、ポジティブなニュースも発表できています。
関連プレスリリース:「カラオケBanBan公式アプリ」の会員数が100万人を突破!
加えて、多様なグループ企業とのシナジーも大きな武器になります。2024年12月、三重県桑名市に「カラオケBanBan×GiGO」の複合店をオープンしました。ゲームセンターとカラオケの相乗効果で、双方のお客様の行き来が生まれ、集客アップにつながっています。それから、GENDAにはレモネード専門店「LEMONADE by Lemonica」やグルメポップコーン「ヒルバレー」といった、若い世代に人気の飲食ブランドもあります。カラオケの飲食メニューと組み合わせることで、他のカラオケチェーンにはない魅力を増やしていけるのではないかと期待しています。
GENDAのグループ外観はこちらからご覧いただけます。
https://genda.jp/group/
更に、人材育成にも力を入れています。社長就任後、本社に「人材開発部」という部署を新設し、社員研修プログラムを始めました。シン・コーポレーションの従業員は、カラオケの専門知識は申し分なく、私も頼らせてもらっていますが、一般的なビジネススキルについては伸ばせる余地があります。階層別にビジネススキルを学ぶ機会を提供することで、キャリアアップやGENDA内での活躍の幅も広がるはずです。
まだまだこれからですが「シン・コーポレーションが良い方向に変わり始めている」と従業員も感じてくれていると嬉しいですね。
最終的には、GENDAのリソースを活用して、カラオケ業界全体の活性化に貢献したいという思いがあります。エンタメ領域の中で、様々な事業を持つGENDAならではの新しい視点と発想で、業界に新風を吹き込み、市場そのものを大きくしていきたいですね。それこそがGENDAの一員としての、社会的意義だと思っています。

紹介したM&Aの概要
株式会社セガ エンタテインメント。アミューズメント施設「SEGA」を約200店舗運営。(2020年12月時点)2020年12月にGENDAに株式85.1%を譲渡、社名をGENDA SEGA Entertainmentへ変更。2022年1月にGENDAに株式を100%譲渡し現在の社名である株式会社GENDA GiGO Entertainmentに。
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