2024 年 7 月 16 日に発表した公募増資について、詳しく教えてほしい。

公募増資に至った理由

理由は以下の4点でございます。

  1. 1.M&Aを成長戦略とする当社に於ける、公募増資という市場からの最大の懸念材料を、株式価値の希薄化を最小限に留めながら払拭することが可能な状況であったため
  2. 2.上場後のソーシング力強化により増加の一途を辿るM&Aのパイプラインを前に、資本的な制約を取り払って最速で執行する体制に入るため
  3. 3.借入余力が十分存在する間に財務体質を強化することで、盤石な金融機関からの支援体制を更に強化しつつ、社債も含めた借入余力を向上させるため
  4. 4.当社株式の課題であった、株式の流動性を改善するため

以降、それぞれ詳細を説明させて頂きます。

  • 1. 株式価値の希薄化の最小限に留めた公募増資

M&Aを成長戦略とする当社は、Cash EPSを最重要視しておりますが、その希薄化について最小限に留めながら公募増資を完了し、M&A待機資金100億円を調達しております。

まず、発表時の株価水準は上場来最高値を2営業日連続で更新した7月16日の引け後と、希薄化の最小化が可能なタイミングとなりました。また、発表当日の夜時点で既に海外機関投資家からの大幅な超過需要を形成しておりました。新株発行による株式数の名目的な希薄化率は約7%でしたが、翌営業日の7月17日の株価終値は▲2.5%の下落に留まる中、超過需要に基づいて同日プライシングが可能となり、マーケットリスクを最小限に留めました。条件決定も、レンジ内で最小のディスカウント(3.04%)となりました。

以上のことから、当社の最大の懸念材料であった希薄化イベントについて、実態的にはCash EPSへの影響を極小化、つまり、既存株主様のご資産である株式価値の希薄化を最小限に留めつつ、100億円を調達することに成功致しました。

更に、公募増資により調達した現金100億円は、先週水曜日の7月31日に入金され、本日現在で当社の銀行口座に存在しております。

この100億円が、過去の資金調達の返済など、当社の連結キャッシュフローを増やさない方法で使用された場合は、この公募増資が実質的にも株式価値を希薄化するものであると考えております。一方で、当社の連結キャッシュフローを、本公募増資の名目上の希薄化率である7%以上増加させる方法で使用された場合には、この公募増資は希薄化を起こすものではなく、むしろ公募増資によって理論的な株式価値を上げていく資金となります。簡易的には、例えば当社予想のEBITDA 130億円に対して+9億円以上増えるかどうか、また実際には負債調達のレバレッジ効果により、更にハードルは低くなります。

翻って当社は、この100億円を全て本日以降に発表するM&Aに使用させて頂きます。既に発表済みかつ完了済であるM&Aに対する借入の返済に充当する予定は無く、また、既に発表済みながら完了前であるM&AであるNEN及び音通に関しても、それぞれみずほ銀行様、三井住友銀行様から、株式取得対価の全額を借入とするための資金調達決裁を頂戴しております。

以上から、当社としては今回の公募増資について、希薄化を抑えるだけでなく、将来的なM&A活動の加速によって大きく株式価値を向上させるための施策であると考えております。

一方、足元では歴史的な株式市場の調整局面が到来しております。結果的に、今回の公募増資にご参加頂いた海外機関投資家様の投資簿価は2,042円と、足元の株価水準とは大きな乖離がある状況でございます。株式市場のシクリカルな調整は現実的には避けられませんが、公募増資の前後を含めご資金を託して頂いた全ての投資家様に報いるために当社が今できることは、市場環境に関わらず、本日現在で当社の目の前にある潤沢なM&Aのパイプラインを1つずつ1日でも早く発表し、非連続な成長の果実をいち早く投資家の皆様にご提供することだと信じております。

その観点で、今回の公募増資が今後の当社のM&A体制を大いに強化するということを、次の②にてご説明させて頂きます。

  • 2. 今回の公募増資による、M&A執行体制の強化

当社は今回の公募増資によって、上場後のソーシング力強化により増加の一途を辿るM&Aのパイプラインを前に、資本制約を取り払って最速で執行する体制に入ることができると考えております。それぞれ説明させて頂きます。

まず、上場して1年が経過する中、M&Aの新規案件のソーシング(案件発掘)力が大きく向上致しました。かつて、当社の主軸は業界のインナーサークルでのソーシングでしたが、上場1年間を通じて、取引金融機関の約50社様、並びにM&A仲介業者の約100社様から、毎日潜在的なM&A案件のご紹介を頂いております。前期1年間でのソーシング件数が170件であったところ、今期は開始3ヶ月の1Qのみで既に同99件となりました。

その成果の1つが、カラオケ業界へ参入して間もない当社が、カラオケ機器の流通業界2位の上場企業である株式会社音通社へのTOBを、同社の賛同表明に基づいて発表するに至ったことであり、今までには無かったエンタメ業界のM&Aに対する引力が発現した事例だと考えております。また、ゲームセンターやカラオケを中心に、グループインした主要各社がPMIにより前年同期比で成長を遂げていることは既に公表している通りでございます。

加えて、本日現在の当社の預金口座には、公募増資で調達した100億円が存在しておりますが、自社の預金口座に「M&Aに充当可能な多額の現金が存在している」のは、当社としては創業来で初めての状況です。というのも、IPOで新株発行により調達した50億円は、その全額が設備投資向けの資金であり、M&Aへの使用はございませんでした。上場後、ほぼ全てのM&Aを一件ずつ借入で資金調達をしてきた当社としては、本日以降のM&Aに使用してもよい現金が既に豊富に存在している、ということが今までにない新しい景色となっております。

また、通常の公募増資では、投資家保護の観点からいわゆる(発行体)ロックアップにより、いかなる新株発行も制限されることが慣例であり、株式でのM&Aが制限されることが一般的です。今回の当社の公募増資でも、当社は6カ月間の新株発行による資金調達が制限されております。しかし、M&Aを成長戦略とする当社としては、(新株発行を伴う)株式によるM&Aを制限することは、寧ろ投資家の皆様の望むところではないと考えておりました。

そこで今回当社は、「株式を取得対価とするM&A」(例えば株式交換や株式交付によるM&A)を行う場合にのみ、公募増資完了後の発行済み株数の5%までの新株発行をすることを許容されるストラクチャーに誂えております。このようにして、今回の公募増資が成長の制約とならぬよう、当社のM&A実行力を最大限まで引き出せるように配慮しております。

更に、足元の市場環境では株式での資金調達が実質的には困難であったであろうことに鑑みると、この全面的な株価調整局面を前にM&A待機資金100億円を既に手にしていることは、当社の長期的なM&A活動にとって大きな意味があります。加えて、当社が公募増資で調達した資金は、Cash EPSベースのPERで29xでの調達資金となりますが、この現金を使用してCash EPSを増加させるためには、理論的には対象会社の同PERが29x未満であればよいため、この国内全域に及ぶ株価調整局面では、より一層強力な資金源となります。

上場後からM&Aパイプラインは日々拡充される中、調達した100億円の資金使途が明確に存在しており、今までで最も制約から解放された状態でM&A活動を進められる体制になったこと、そしてそれを通じて、中長期的には株主の皆様のご期待に必ずや沿えるという思いから、役職員一同、士気が高まっております。この100億円に、借入余力の拡充を通じた有利子負債の借入によってレバレッジを掛け、Cash EPSが増加するM&Aを最速で遂行し、非連続な成長を投資家の皆様に提供して参りたいと考えております。

  • 3. 金融機関の支援体制強化と借入余力

当社は上場以降、ほぼ全てのM&A案件を借入で調達していた結果、M&Aの資金負担がほぼ全て金融機関に寄っていた状況でした。斯かる状況下、当社としてはM&A戦略が更に加速することに鑑み、十分な借入余力を有している間に当社の株式市場での資金調達力を示すことで、盤石である金融機関との関係性を更に強固なものにすることができました。

また、当社はキャッシュフロー指標では借入余力に於いて余裕がある一方、Cash EPSを意識した借入によるM&Aを継続していたことから、国内格付機関が重視する純資産の「絶対額」が小さいことが課題でした。しかし今回の公募増資により、当社の純資産が約200億円から300億円と1.5倍になるため、社債を含めた直接市場からの資金調達が合理的な選択肢となる可能性もあると考えております。

また、公募増資の100億円によって借入余力は大きく改善されます。具体的にご説明させて頂きます。

金融機関との議論の中ではNet Debt / EBITDA 3.0xが借入余力の目安であり、足元の同指標は2.0xである旨を公表しておりましたが、今回の公募増資によってこれが大きく改善されます。この状態から、M&Aによる有利子負債の調達で同指標が3.0xになるために、総額いくらの有利子負債を借りられるかを、機械的に計算致します。それに際して、当社の現預金、EBITDA、対象会社のNet Debtに一定の前提条件を仮定させて頂きます。

まず、現預金については、公募増資の100億円は一時的に現預金を増加させますが、全額をM&Aに充当する予定であり最終的にはゼロとなるため、公募増資前の現預金180億円を横置き、と仮定致します。

次に、EBITDAの増額分についてです。純有利子負債(Net Debt / EBITDAの分子)が増加するということは、当社の場合はその分M&Aを実行することを意味し、その結果としてM&Aにより対象会社のEBITDAも連結され、連結EBITDA(分母)も増加するため、分子と分母が同時に増加することになります。有利子負債が一単位増加した際に、どの程度EBITDAが増額するか、という仮定をする必要があるため、EV / EBITDA倍率が5.0xでのM&Aを想定します(ご参考までに、直近公表しているM&AであるNEN、音通、シトラムの3件のEV / EBITDA倍率は、それぞれ3.6x、5.6x、1.8xでした)。たとえば有利子負債100億円をM&Aに使用すると、EBITDAが20億円増加する計算です。

最後に、当社が過去にM&Aをしてきた対象会社のNet Debtはプラスとマイナス(Net Cash)が混在し、M&A後の純有利子負債の増加には濃淡がございました。今回は中立的な計算を目的に、対象会社のNet Debtはゼロ(つまりキャッシュフリー・デットフリー)という前提とします。

以上の前提に基づき、今回の100億円の公募増資後に、Net Debt / EBITDAを3.0xにする有利子負債とEBITDAを機械的に求めると、有利子負債は1,050億円、現預金180億円、EBITDAは290億円となります。NEN及び音通がクロージングすると当社の有利子負債は約500億円となりますが、機械的な計算では、今回の公募増資で得た資金100億円により、追加的に550億円の有利子負債が調達可能となる計算となります。

現実的には、M&Aによる負債調達余力は、のれんと純資産の金額やM&Aのスピード、対象企業等の総合的な観点にも影響されますが、定量化可能な指標であるNet Debt / EBITDA 3.0xに限定した、一定の前提に基づく機械的な計算としてお示ししております。

  • 4. 株式の流動性の改善

当社のIPO以降の株主層の大部分が安定株主層(詳細は後述の通り)となっていた中、特に大型の運用資金を有する機関投資家様が新たに市場で当社株式の投資を検討される際、株式の流動性向上についてのご意見が寄せられるようになっておりました。

まず、「吉村英毅・ミダスB投資事業有限責任組合」が約38%、「ミダスキャピタルGファンド有限責任事業組合」が約5%、当社役職員合計で約24%を保有しておりました。加えてIPO時には、2023年7月19日開示の「訂正有価証券届出書(新規公開時)」にて記載の通り、アセットマネジメントOne株式会社様より564,900株(1.52%)の親引けによる株式取得をしていただきましたが、その際の保有方針は「長期保有の見込みであります」との開示となっております。また、2023年7月10日開示の「訂正有価証券届出書(新規公開時)」にて記載の通り、Capitalグループ様より「取得総額2,711百万円」の株式(4.19%)に対する関心の表明(Indication of Interest)を頂きましたが、同じく「中長期的に保有するという保有方針」として開示しております(なお、本件はあくまで関心の表明でありますため、親引けと異なり、IPOに於ける実際の株式配分は非開示となっております)。

当社株式が流動性のある株式市場に上場しているという性質上、株主様の売買について当社が言及すべき立場にはございませんが、当社の業績が昨年対比で拡大する中、相対的には流動性の低い安定株主層が大部分を占めているのは事実です。 斯かる状況下、当社は株式分割にて流動性の向上に努めておりましたが、根本的な改善策として、新株発行100億円を実現しつつ、ミダスキャピタルGファンド有限責任組合から一部売出し(1.5%、約20億円)に関する合意を取り付けた形となります。マクロでの調整局面もありますが、結果的に足元で取引高は有意に増加しており、流動性の向上に伴い、中長期的にはセカンダリーマーケットでの大型の機関投資家の買い付けの素地も整えられたものと考えておりますので、より一層のIR活動に努めて参ります。

Tag: 2024年8月5日